経路を変える
製造メーカーである現象があります。それは、メーカーが積極的に直営店舗を展開する動きです。一見すると、売上が好調な企業がさらなる成長を目指して直営店を出店するように見えますが、実はその背景には小売業界が抱える構造的な課題が隠されています。中には、これまでの取引関係を大きく見直し、卸売業者や商社との取引を完全に停止するという大胆な決断を下すメーカーもあります。経営決断としては大きな決断だと感じます。その流通経路を
直営店展開
直営店について考察してみます。
1. 製品ラインナップの拡大による課題
メーカーが直営店を展開する主な理由の一つは、製品ラインナップの拡大に伴う展示スペースの確保です。メーカーは次々と新製品を開発・発売しています。しかし、従来の小売店では限られた店舗面積の中で、複数ブランドの商品を取り扱う必要があるため、一つのメーカーの商品をすべて展示することが物理的に困難な状況となっています。
2. 小売店、理想のギャップ
メーカーは自社のすべての製品を消費者に紹介したいという願いを持っています。ラインナップを企画するときは、全部を見てもらうのを前提としているからです。部分的に見てもらっても企画意図がわからないのです。しかし、小売店には以下のような制約があります:
- 限られた店舗面積
- 複数ブランドの取り扱い義務
- 在庫リスク
- 売場効率の追求
これらのギャップが課題となっていくのです。最初は問題にならないことも企業規模拡大によって課題が大きくなるのです。
小売店側から見ると
小売店についても考察してみます。
小売業が抱える構造的問題
小売店では「チェリーピッキング」と呼ばれる現象があります。米国における表現です。意味は、『販売実績の高い商品のみを選んで仕入れる傾向』を指します。この結果、以下のような問題が発生しているのです。
- 実績のない商品の取り扱い縮小
- 売り場の個性が失われる、どこに行っても同じような品揃え
- メーカーの製品ラインナップ全体が消費者に届かない
- 商品の持つ本来の価値が正しく伝わらない
書籍業界に見る典型例
書籍業界は、この現象を最も顕著に示している例です。全国の書店では、スペースの制約から、主にベストセラーを中心とした仕入れに偏る傾向が強まっています。
具体的な影響
- 新刊本が全国の書店に行き渡らない
- 良質な本でも販売機会を失う
- 出版直後の実績が将来の展開を左右する仕組みになってしまった
- 多様な書籍が読者の目に触れる機会の減少
中小出版社への影響
特に中小出版社は、この状況から大きな影響を受けています。以前のようなビジネスモデルが構築できず苦戦している状況です。全国の書店への配本が以前より少なくなっているのは事実のようです。
アウトドア業界における直営店戦略
アウトドア業界は事例が2つあります。大きな決断をともなった変換点だと思います。モンベルとスノーピークの事例がそれにあたります。小売店へ販売をお願いしていたのですが、途中から直営店を出しています。直営店のみに特化したケースもあり、これだけ流通を途中で変えるのは大変だったと思います。
まとめ
製造企業にとって、直営店展開は大きな投資とリスクを伴う選択です。しかし、自社製品の価値を最大限に消費者に届け、ブランドの世界観を完全に表現するための重要な戦略となっています。簡単にできる決断ではありませんが事例として知っておくと損はありません。
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