賢馬ハンスの教訓
100年以上前のドイツに、計算ができる馬として世界を驚かせた「賢馬ハンス」がいました。足し算などの計算の答えを、足踏みの回数で正解を出す能力があったとされたのです。しかし、それは実際の知能ではありませんでした。
ハンスを見守る周囲の人間が無意識に発する微かなサインを読み取っていただけだったのです。「5」という答えの場合、6回目を鳴らす前に人間がハンスの顔を見上げるので、その動作を察知していただけなのです。これが「顔色をうかがってその通りに行動しようとすること」というたとえに用いられるようになっています。
「正解」を誘導してしまう
ハンスの教訓は現代でも活かされます。組織において、リーダーが正解を誘導しがちな場合があるからです。メンバーも自分の意見のごとく発言していても、実は「リーダーの顔色を読んでいるだけ」のケースもあります。ここは、なかなか判断できない領域ですが見極めが必要だと感じます。
メンバーがリーダーの顔色を読んでいる場合、「うちのメンバーは消極的なので」とリーダーが発言することもあるので、そのような言動から見極められることもあります。
悪気はない
ハンスの現象は、現場においてスタッフが
・「自ら考えて動いている」
・「リーダーの顔色を読んでいるだけ」
のどちらかなのかを考えさせる教訓となっています。現状、メンバーはどちらなのか、を判断したい。顔色を読んでいる場合においても、メンバーが悪いのではなく、これはリーダーの責任と考えるべき。誘導しているのはリーダーだからです。
固定し誘導すると
経営の現場でも、リーダーが「これが正解だ」「こう動くべきだ」という強い固定観念を持っていると、スタッフは無意識のうちにその「正解のサイン」を探し始めます。正解サインが出るまで、考えたフリをしながら待つこともあり、やっかいです。そのとき発生する現象としては、
- リーダーが喜びそうな報告ばかり出てくる
- 会議で意見を求めても、リーダーの考えをなぞったような回答しか出ない。だれも反論しない
- 現場の本当の問題点が隠れてしまうこともある
これでは、スタッフはハンスと同じように、思考を止めて周囲の空気に適応しているに過ぎないでしょう。
現場から「無言の圧力」を取り除く
スタッフがリーダーの顔色を伺って動く組織は、一見スムーズに回っているように見えますが、不測の事態に極めて弱いのが特徴です。自ら判断する力が育たないので、現場対応力が遅くなります。指示が来るまでは何も対応しないこともあります。
現場経営に活かすためには、まずリーダー自身が「無意識のサイン」を出していることを自覚し、それを取り除くこと。そして、メンバーが考えた結果を否定しないこと。ただ、間違った方向に行くときは軌道修正は必要です。
思考のプロセスを共有する文化
ハンスは「5」という答えは出せましたが、なぜ「5」になるのかを説明することはできませんでした。業務の結果だけを見て評価を下すと、スタッフは「たまたま正解したやり方」や「リーダーに褒められたやり方」を盲目的に繰り返すようになります。これもワナのひとつ。プロセスを見ながら、結果を判断することがここではリーダーに求められています。
まとめ
スタッフがリーダーの顔色を、いつも読む必要のない組織こそ、本当の意味で現場が強く、柔軟な組織といえるでしょう。不測なことが発生しても対応力が高く、解決へも短期間で終わると思います。
そう考えると、賢馬ハンスの教訓は、リーダーの期待が、ときに相手の成長を止めてしまうというリスクを教えてくれています。スタッフが自分の頭で考え、事実に基づいて行動できる環境を作ること。それが、経営者が現場で行うべき重要な仕事のひとつだと感じます。
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