引き上げ計画発表

最低賃金を1500円まで引き上げる明確な数値目標が発表されています。一見すると突然の決定に見えるかもしれませんが、実はこの背景には確かな根拠があるのです。そのため、強気な発言が経済界でも続いています。経済同友会のトップが「払えぬ経営者は失格」と記者会見で述べました。そこまで言い切る根拠について今回は取り上げます。

諸外国の事例から

最低賃金引き上げの効果については、既に諸外国で結果が出ています。さらに、それらの事例を分析した論文のメタ分析も行われており、これらが今回の決定の根拠となっています。主な結論は以下の2点です。

  1. 全国最低賃金の上昇が労働市場全体にマイナスの雇用効果をもたらさなかった
  2. 賃金の上昇は、賃金格差の縮小と低賃金労働者の生活水準の向上という点で主にプラスの効果があった

なぜ影響がないのか

最低賃金の上昇が雇用全体にマイナスの影響を与えなかった理由として、以下の点が考えられます。

  • 非正規雇用が減少する一方で、正規雇用が増加した
  • パートタイム労働者がフルタイム労働者になる傾向も見られる

つまり、部分的には雇用が減少する分野もありますが、増加する分野もあるため、全体としては雇用に大きな影響がないという結論になります。良い方向に雇用形態が移動しているのでプラスととらえていると思います。

引き上げの利点

最低賃金引き上げには、以下のような明確な利点があると結論が出ているので、これは根拠となるでしょう。メリットが大きいと判断しているのです。

  1. 賃金格差の縮小
  2. 低賃金労働者の生活水準向上

これらの利点を考慮すると、最低賃金を引き上げないという選択肢はほぼなくなります。その意識で判断してほしいと言い切っているのも根拠を見ると理解できます。

今後

これらの根拠に基づき、政府は自信を持って「最低賃金を時給1500円まで引き上げる」という目標を設定しました。さらに、2020年代までにこの目標を達成すると宣言しています。

最低賃金の引き上げは、企業にとって大きな課題となります。ある企業で試算したところ、人件費の上昇は売上全体の3%に相当。これを吸収するためには、以下のような対策が必要になってきます。

  1. 3%の値上げによる人件費アップの吸収
  2. 諸経費のアップも考慮し、実質的には4〜5%の値上げが必要
  3. 毎年の値上げ達成が赤字回避の鍵

考えるだけで乗り越える壁が高くなっているのを感じます。避けて通れない壁なので今から考えておくことになるでしょう。

インフレ時代

このような状況下では、企業の経営戦略は大きく転換することになります。通常モードに戻ったという表現になるかもしれませんが、20年ぶりの経営環境です。環境が転換する可能性もあるので、ビジネスモデルを転換しなければならない企業も増えてくるでしょう。

  • 単なる節約モードでは継続的な対応不可能
  • 値上げを前提とした戦略立案が求められる
  • 値上げが困難な場合は、ビジネスモデルの転換まで検討する必要がある

まとめ

最低賃金1500円への引き上げは、単なる政策決定ではなく、諸外国の事例や詳細な分析に基づいた判断だととらえています。企業にとっては大きな挑戦となりますが、同時に社会全体の賃金格差縮小や生活水準向上につながる可能性があります。ハードルは高いですがクリアすれば良い世の中になる可能性も否定できません。取り組んでいくしかなさそうです。

《参考》
『The impact of the National Minimum Wage on Employment』
https://www.rand.org/pubs/research_reports/RR1807.html

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