ビジネス現場に潜む知性のワナ

「賢い人はある種の愚かな思考に人並み以上に陥りやすい」という説があります。高いIQで専門知識が豊富なスタッフほど、実は自分のバイアスに気づけず、致命的なミスを犯すリスクを秘めているというのです。今回は、ビジネスシーンにおける「知性のワナ」について取り上げます。

知能が高い人ほど「間違える」理由

なぜ、優れた頭脳を持つスタッフが揃っていながら、組織は誤った判断を下してしまうのでしょうか。そこには、知能が高いゆえの「思考の落とし穴」が関与していると言われています。次のような内容です。

  • バイアス:
    自分の信念を裏付ける証拠を見つけるのが得意すぎて、反対意見を論理的に排除してしまう、反対意見を受け入れない
  • バイアスの盲点:
    他人のミスには敏感でも、「自分は客観的で合理的だ」という自負があるため、自分の偏見には全く気づけない、客観性の欠如
  • 動機付けられた推論:
    自分の正しさを証明するために、高度な知性を「言い訳」や「正当化」のために使い果たしまうことがある

このように、知能の高さが「自分の間違いを隠すための盾」として機能してしまうのが、知性のワナの本質。優秀過ぎる弊害でもあります。

ビジネス現場で何が起きるのか

このワナは、特に戦略立案や重要な意思決定の場で現れることがあります。そのため、結果として大きな失敗になることが事例としてあります。

  1. 戦略への固執:
    緻密なデータ分析に基づいて完璧な計画を立てたスタッフほど、市場の変化を示す「不都合なデータ」を例外として切り捨て、既存の戦略に固執してしまいます
  2. 専門家の過信:
    過去の成功体験が強いスタッフほど、「自分ほどこの業界を理解している者はいない」という自負から、新しい技術や異業種の脅威を過小評価する傾向にあります
  3. 集団的浅慮:
    優秀なメンバーが集まる会議ほど、「これほど賢い人たちが賛成しているなら間違いない」という空気が醸成され、誰も異論を唱えなくなり、方向がズレていきます

守るべき境界線

知性のワナを防ぐマネジメントを考えてみると、下記のようなことは避けたいところ。

  • 反対意見の即座の論破:
    論理的に未熟な意見であっても、即座に叩き潰さない。それをしてしまうと自分自身のバイアスを強固にするだけ
  • 結果のみに基づく賞罰:
    たまたま運が良かっただけの「愚かな成功」を褒め称え、正しいプロセスを踏んだ「賢い失敗」を責めることは、組織の学習能力を奪うこともあります。プロセスを精査するようにしたい
  • 情報の独占:
    特定の「賢い」メンバーだけで情報を抱え込み、クローズドな環境で決断を下すことは、バイアスを加速させる温床となるでしょう。適切な情報共有を心がけることです

まとめ

このように考えてみると、真に賢いスタッフとは、単に問題を解く能力が高い人ではなく、「自分の思考の限界」を正しく認識し、他者の視点を取り入れられる人だといえます。その先に、組織全体で「知的謙虚さ」を育む文化が醸成されていくことでしょう。これも組織の強さポイントとなります。継続性が高い組織へと昇華されるのです。

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