どちらがいいのか

戦略論の代表的なものに「選択と集中」があります。選択と集中は、限られた経営資源を特定の事業や顧客に集中投下することで効率性を高め、競争力を強化する戦略として知られています。この戦略を採用した企業が取り上げられることも多く、目立つ戦略でもあります。成功すれば、市場での優位性を確立することができます。しかし、顧客の市場性によっては、選択と集中がメリットではなく、デメリットになりかねません。

景気にも左右される

海外では景気後退の懸念が高まっており、その影響が日本経済にも波及することは避けられないと予想しています。こうした状況下で、特定の事業や顧客に過度に依存していると、リスクが著しく高まることになります。大口顧客の業績が悪化すれば、自社の売上も大きく減少し、経営基盤が揺らぐことになるのです。

また、選択と集中を推し進めている企業は、特定の事業や顧客に経営資源を集中させるあまり、他の事業や顧客へのアプローチが疎かになっていることがよくあります。その結果、大口顧客以外からの売上を急に増やすことが難しくなり、景気後退の影響を受けたときのリカバリーに時間がかかってしまうのです。

回復に年単位の時間が

実際に、選択と集中を進めていた企業が、大口顧客の業績悪化により深刻な経営難に陥ったケースは枚挙にいとまがありません。特定の事業や顧客に依存しすぎていたために、他の事業や顧客を開拓する時間的余裕がなく、売上の回復に1年、2年と長い時間を要したのです。

どうすればいいのか

では、現在のような不透明な経済環境下では、どのような経営戦略を採るべきでしょうか。私は、「分散と柔軟性」が極めて重要だと考えています。事業や顧客を多様化させ、特定の事業や顧客に依存しすぎないようにすることが求められます。そうすることで、景気後退の影響を受けても、他の事業や顧客でカバーすることができるはずです。

また、柔軟性を高めることも欠かせません。環境の変化に素早く対応できるよう、組織構造や意思決定プロセスを見直し、スピード感を持って行動することが肝要です。スタッフの異動も今後は頻繁に行われることになるでしょう。

ただし、分散と柔軟性を追求するあまり、経営資源が分散し、効率性が低下するリスクも忘れてはなりません。そのため、事業や顧客の選択については、慎重にバランスを検討する必要があります。自社の強みを活かせる分野に経営資源を集中させつつ、過度な依存は避けるというバランスがカギなのです。

また、営業部署においては顧客のフォローを集中させず、フォローを分散させることをおすすめしています。集中して深くフォローする顧客もあれば、浅く広くフォローする顧客も増やしておくのです。

マイナス作用の可能性も

選択と集中は、有効な戦略かもしれません。しかし、顧客の市場が後退するときなどは、むしろマイナスに作用する可能性が高いのです。経営では、常に環境の変化を注視し、その時々に応じた最適な戦略を選択していく必要があります。

まとめ

選択と集中か、分散と柔軟性か。経営者の判断力と先見性が問われる時代が到来するのではないでしょうか。今後は、過去の成功体験に固執せず、なんでも受け入れる柔軟性が高い価値になる時期です。環境の変化を的確に捉え、自社の強みを活かしつつ、リスクを分散させる経営戦略を採ることが、企業の持続的成長につながると考えています。

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スキマ時間に読めるビジネスリーダーのための『経営情報Web Magazine ファースト・ジャッジ』fjコンサルタンツ 藤原毅芳 運営 執筆