独特な役職呼称が与える影響

キーエンスといえば、独自の企業文化で知られる超優良上場企業です。同社の特徴の一つに、ユニークな役職呼称があります。社長のことを「社責」、部長を「部責」、機械管理責任者を「機責」と呼ぶのです。一般的な「長」という言葉を使わないのは、「長 ≒ 一番偉い人」というイメージを避けるためだそうです。役職者は単に責任を果たすための役割のある人、という定義に限定しています。責任だけをフォーカスできる役職名になっているのが興味深いところです。誤解が生じません。

どこが大事なのかわかる

この呼称の背景には、キーエンスの経営理念が反映されています。「責」という言葉に込められているのは、役職者の責任と役割を重視する姿勢です。権威によるトップダウン的な管理ではなく、役割に基づくリーダーシップを大切にする文化なのでしょう。

また、「機責」のように、特定事業の責任を明確にすることで、組織内の役割分担や責任の所在がはっきりします。これは、スピード感を持って仕事を進める上で効果的です。担当者の裁量権を明確にし、迅速な意思決定を可能にする狙いがあるのではないでしょうか。

行動を決定する

キーエンスのこうしたアイデアは、機能的な組織文化を作ろうとする意図の表れだと思います。社員一人ひとりの主体性を引き出し、チームワークを促進することで、全体の生産性を高めようとしていると思います。「責任」を強調することで、社員の意識や行動を方向づけているのです。これだけわかりやすい事例は少ないと感じます。規模が大きくなるのにも関わらず、結果も利益率も同じで推移しているキーエンスという会社の根幹を見る思いです。

本当のキーは他にあるが

もちろん、呼称だけで理想的な組織文化ができるわけではありません。本当のキーになるところは出てきません。キーエンスの情報は最近増えていますが、実は肝心なところは出てこないのです。営業系の情報ばかりです。とはいえ、キーエンスの独自な役職呼称は、同社の文化を特徴づける重要なピースの一つと言えるでしょう。

意識を変えるために

言葉の持つ力を意識した組織づくりは、キーエンスに限らず、多くの企業で参考になるはずです。名称の工夫は、社員のマインドセットを変える 表現になり得ます。他社でも同様の取り組みがあります。沖縄の小売店サンエーでは、「管理職」を「経営職」と呼んでいます。これも意識を変える取り組みのひとつだと感じています。

まとめ

組織文化というと、なんとなく捉えどころのないものに感じられがちです。しかし、キーエンスの事例は、役職呼称という具体的な施策で文化を形作っていく可能性を示しています。言葉の選び方ひとつで、社員の意識や行動は大きく変わるのです。参考にしたい部分です。

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