帰還不能点とは

帰還不能点(point of no return)は、航空工学における用語です。『航空機や宇宙船が飛行中に、残された燃料では出発地点に戻ることができなくなる地点』のことです。後戻りできない地点のことです。これ以上先に進むと出発地点に戻ることができない限界点を指しています。他にも、離陸決定速度 (take-off decision speed)を超えると、いかなるトラブルが機体に発生しても離陸するしかありません。これも、帰還不能点のひとつです。航空機の安全性を考える上で、限界地点を明確にするために考えだされた概念です。

想定すると

帰還不能点を想定すると、次のようなことを考えるようになります。

  • 往路における燃料消費量の予測
  • 気象条件による変動要因の考慮
  • 高度や速度による消費量の変化
  • 予期せぬ状況への対応余力の確保
  • 気象変化による航路変更への対応
  • 緊急着陸地点の選定と必要燃料の確保

今までに700回以上、飛行機に乗っていると、バードストライクも経験したことがあり、緊急着陸したことを思い出しました。その時はパイロットは帰還不能点を必ず頭に思い浮かべるのでしょう。ただ、日本国内においては空港が100ほどありますので、燃料切れが発生するようなことはまず起こらない。しかし、何が起こるか分からないので、常に考えていると思います。

組織における意味

航空工学から派生したこの考え方は、組織運営においても当てはまります。後戻りできない地点が組織運営においてもあるからです。組織変革をする場合は、帰還不能点が発生します。変革を止められない、元に戻ることができない地点です。帰還不能点は単なる一時的な変更ではなく、根本的な転換点になります。

組織変更をした場合だとわかりやすいでしょう。人の配属を変更していくとき、元に戻せる場合と、戻せなくなる組織変更があるからです。その地点が帰還不能点であり、その地点をわかっておくことがここではポイントです。

新規事業において

新規事業においても同じように帰還不能点があります。初期投資をしてスタートしますが、撤退できない地点が存在するからです。社運をかけて巨額な投資をした場合、元に戻ることができないのです。ある企業の事例になりますが、行政が数億円レベルの多額の補助金を出し、その企業も数十億円の投資をして、新規事業を始めました。そのエリアでは話題になっていた事業です。それが、コスト上昇により赤字になり、最後は経営破綻しました。投資額が多額であり、帰還不能点を超えた投資であったため、赤字でも撤退できなかったのです。最初から撤退できる範囲でスタートすれば、そのような結末にはならなかったと感じます。

まとめ

帰還不能点について取り上げましたが、後戻りできない地点を最初から知っておくことは、やはり大切なことだと感じます。スタート地点から帰還不能点を超える投資はリスクが高いので、よく考えなければなりません。業績の好調な企業が、新規事業で失敗するケースは、最初から帰還不能点を超えていることがあるのです。ただ業績好調のため、そのことに関して誰も何も言わないのでしょう。どのような場面においても帰還不能点は欠かせない視点だと感じます。

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