近接職域から

深刻な人手不足に悩む業界は人手不足の解消を考えるものです。新しい採用・育成の取り組みが注目を集めています。従来の「即戦力採用」や「新卒一括採用」とは異なる、柔軟な発想だと感じたので取り上げます。その手法は、近接職域からの採用です。

バス業界での取り組み

富山県では、深刻なバス運転手不足に対して、オリジナルな解決策を考え実行しています。バスガイドや車両整備スタッフといった「近接職域」からの運転手人材登用を積極的に進めているのです。近接のスタッフは、日常的にバスの運転の様子を間近で見ていたり、工場内での走行業務に携わっていたりと、バス運転手への転身のハードルが比較的低いという特徴があります。さらに、必要に応じて元の職場に戻れる道筋も確保されており、転職へのリスクを大幅に軽減しています。不足しているのを見ていると、「助けてあげたい」という気持ちを持ったスタッフが運転手を目指しているのではないかと感じています。

生命保険業界の先行事例

実は、この段階的なキャリア移行による人財確保は、生命保険業界ですでに実践されてきた手法でもあります。事務職員として採用した方を、業務経験を積んだ後に営業職へと誘導するアプローチです。

この方法には複数のメリットがあります。事務職として働く中で、会社の商品知識や業務プロセスを深く理解できること。顧客対応のノウハウも自然と身につきます。何より、いきなり営業職として採用されるよりも心理的なハードルが低く、自分のペースでキャリアを築いていけるという利点があります。また営業職に異動することで収入も増えるので、マッチすれば有効な手段となるのです。

なぜ効果的なのか

この「段階的育成」による採用アプローチが効果を上げている理由は、現代の労働市場が抱える課題とマッチしていると考えています。下記のような特徴があると思います。

1)転身者側のメリット

  • 急激な環境変化を避けられる、慣れている、見慣れている、なんとなく様子がわかる
  • 失敗のリスクが軽減される、失敗しないような気がする、
  • 新しいキャリアを実践的に検討できる、試せる、元のところに戻ることができる安心感がある

2)企業側のメリット

  • より広い人財プールにアクセスできる、採用コストがかからない、見極めが必要ない
  • 採用のミスマッチリスクが減少させられる
  • 確実な育成が可能、教育の予測が立つ、可能性が見込める

これからの採用戦略へ

終身雇用の減少や、転職・副業への意識変化が進む現代において、このような柔軟な採用・育成アプローチは増えるでしょう。通常の採用活動では人が集まらないからです。日本は近接の異動がしやすい文化ですし、雇用関係もそれを許しています。その点では日本独自の採用方法ともいえるでしょう。

まとめ

新しい試みは覚えておいて損はありません。すぐに試す必要はありませんが、イザというときには試す価値があるからです。人手不足はまだ続くと思いますので、このような手法には価値があると思います。

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