直接販売戦略で

今回は、ある石鹸メーカーの成功物語を取り上げます。下請け製造業から事業転換し、大手小売店との直接取引を実現、年商400億円企業へと成長した松山油脂株式会社の事例です。

下請け製造業の現実

約30年前、松山油脂は年商わずか4億円の下請け石鹸メーカーでした。年間利益は大きくなく良い状況ではありませんでした。中小企業としてはかなり厳しい状況だったようです。さらに悩ましかったのは、下請けのため、自社製品が最終的にどんなお客様の手に渡るのか、それすらわからなかったことです。卸売業者を通じて販売されるため、製品に込めた思いや品質へのこだわりが、果たして最終消費者に伝わっているのか。そんな不安を抱えながら経営していたようです。

アトツギ社長の決断

そんな状況を一変させたのが、アトツギ社長の大胆な決断でした。会社を継ぎ、「直接製品を届けたい」という強い思いを抱き、直接販売したいと考えたのです。そして自社ブランドを立ち上げました。これは単なる製品名の変更ではありません。製品開発から販売まで、すべての工程を自社でコントロールする。そんな大きな挑戦の始まりだったのです。

常識を覆す直接アプローチ

しかし、ブランドを立ち上げただけでは不十分です。どうやって大手小売店に商品を置いてもらうか。これが次の大きな課題でした。そこでアトツギ社長が取った戦略が、驚くほどユニーク。まず、ターゲットを明確に絞りました。「ロフト」「東急ハンズ」「ナチュラルハウス」という3つの大手小売店です。しかし営業に行くツテがなかったのです。そこでアプローチを考えました。社長自らこどもを連れて、一般のお客様のふりをして店舗へ行ったのです。普通の企業なら、営業担当者を送り込むところですが、そうはしませんでした。

店内で、さりげなく店員さんに話しかけます。「私、石鹸作ってるんです。試してみてください」と、試供品を渡したのです。この方法は、一般的な営業手法からすると非常に異例。しかし、結果的にはこの手法が見事に功を奏しました。バイヤーにつないでくれたのです。

予想外の結果

この直接販売戦略の結果、松山油脂は驚くべき成長を遂げました。年商が400億円に達したのです。狭い売り場面積でも売上高の高い商品として認知されたので、一気に売り場が増えたのがその要因です。さらに注目すべきは、利益率の向上。直接販売により中間マージンがカットされ、より多くの利益を確保できるようになりました。その結果、現在では銀行からの借入すら必要がないほどの健全な財務状態を実現しています。

事例から学ぶ

では、この事例から得られるポイントを整理します。

  1. 直接販売のパワー
    中間業者を省くことで、利益率アップと顧客との直接的なつながりを得られます。これは単に利益を増やすだけでなく、顧客のニーズを直接把握し、製品開発にフィードバックできるという大きなメリットがあります。ただ、構築するのは簡単ではありません
  2. ブランド力
    自社ブランドを持つことで、製品の価値を直接顧客に伝えられます。これは単に認知度を上げるだけでなく、企業理念や製品へのこだわりを直接伝える手段となります。また、ブランド力があると製品の種類を増やせる利点があります。ショップでも全ての製品を並べてもらえる可能性が高く、売上増につながるのです

まとめ

何かを試す先には、ブレイクスルーがあるかもしれません。勇気を持って新しいアプローチを試してみる。そんな姿勢が、ビジネスの成功につながったのでしょう。偶然に見えるかもしれませんが、可能性のあることを試せる環境に身を置いたことは特筆すべきことです。一見何気ないことですが、成功を分ける条件でもあるのです。

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