なぜ「踊らされる」のか

金融の世界には、「音楽が鳴っている間は、ダンスを踊り続けなければならない」という例えがあります。これは、市場が好調で株価が上昇しているとき、機関投資家は投資を投資し続けなければならない状況を指す比喩です。

この「音楽」とは、市場の上昇トレンドや活発な取引量、あるいは緩和的な金融政策を指します。上昇相場が続いているときのことを指しています。

そして「ダンス」とは、株式や債券の売買、新たな資産への資金投入といった投資活動全般のこと。機関投資家は業績を求められるので、他より良い業績を上げるために、上昇相場のときは投資し続けなければならないのです。

なぜ踊り続ける必要があるのでしょうか。その理由は、機関投資家が負う運用責任にあります。顧客から預かった資金を、他社以上のリターンで運用する義務があるため、市場全体が伸びているときに投資をためらうと、相対的にパフォーマンスが低下し、評価を落とすリスクがあるのです。もしそうなったら評価が下がり、機関投資家として退場しなければならないのです。

「踊らざるを得ない」構造的な理由

「踊り続ける」ことは、業界の構造的な問題でもあります。競争の激しい運用業界では、ライバル他社が積極的に投資を行うと、自社の市場シェアや影響力が相対的に低下します。このため、他社に追随して「踊り続けざるを得ない」状況が生まれているのです。その点は理解しておきたいところです。

さらに、多くのファンドは四半期ごとのリターンで評価されます。市場の上昇局面でポジションを減らすと、短期的なパフォーマンスが他より乖離し、投資家からの資金引き上げにつながる可能性があります。この評価制度が、たとえ市場が過熱していると感じても、リスクを取って「ダンスを続ける」ようインセンティブとして働くのです。踊り続ける選択をするしかないのです。それが仕事だと認識しているのでしょう。また、長期的に取り組む仕事ではないと感じているのかもしれません。

音楽が止むとき、何が起きるのか

「音楽」は永遠には鳴りません。いつか必ず、金利上昇や景気減速といった要因で市場のトレンドは変わり、音楽は止まります(株価などが下落)。その瞬間、状況は一変します。

音楽が止むと、機関投資家はそれまでの「ダンス」を急停止し、一斉にリスク回避へと動き出します。この動きは、まるでパニックに陥ったかのように、資産の売却やポジションの縮小という形で現れるはず。

これは、バブルの形成と崩壊を繰り返す市場のサイクルを象徴しています。機関投資家が「音楽が鳴っている間」にどれだけリスクを取ったかによって、その後の「音楽が止んだ後」の下落の度合いが変わってきます。

まとめ

「音楽が鳴っている間は、ダンスを踊り続けなければならない」という比喩は、機関投資家が市場の上昇トレンドに乗り続けなければならない構造的な必然性を簡潔に示しています。これは、市場の成長を後押しする一方で、過度なリスクテイクやバブルを助長する側面も持ちます。この格言は、市場の好調さを判断する際、その裏にある機関投資家の行動原理と、それに伴うリスクを理解するための重要な視点を与えてくれるはずです。ビジネスは、どの業界にいっても心理戦なのです。

——————————-
『経営情報Web Magazsine ファースト・ジャッジ』運営執筆 藤原毅芳(fjコンサルタンツ) from2011