なぜ今「ファウンダーモード」が注目される

企業の成長と共に経営の舵取りは「マネージャー」に委ねるのが定石。しかし、その結果として生まれる官僚主義やスピードの鈍化といった「大企業病」に、多くの成長企業が直面します。そこで今、解決策として注目されているのが「ファウンダーモード」。

これは、企業が拡大した後も創業者がビジネスの核心、特にプロダクトや顧客体験の細部にまで深く関与し続ける経営スタイルです。権限委譲を理想とする「マネージャーモード」とは対照的に、創業者が持つ独自の視点と情熱を組織の隅々にまで浸透させ、スタートアップのような熱量と迅速さを維持することを目指します。AirbnbのCEOがこのスタイルに回帰し、組織の再活性化に成功したことから、その有効性が広く知られるようになりました。

権限委譲はするが、最も重要なところは確認するよ、というスタイル。重要なところとは、顧客と企業の接点。日本トップクラスの企業の創業者が今でも毎週の折込チラシの内容を確認しているらしいというエピソードを聞いたことがあります。顧客との接点である広告やコールセンターの状況を確認することがファウンダーモードのひとつでしょう。

ファウンダーモードがもたらす「スピード」

ファウンダーモードの最大の利点は、意思決定の速さとビジョンの徹底にあります。創業者が現場の最前線に立つことで、階層的な報告や承認プロセスを省略し、市場の変化や顧客のニーズに即座に対応できます。即決できる仕組みでもあります。

また、創業者の製品に対する強いこだわりや情熱が直接チームに伝わることで、組織全体の士気が高まり、イノベーションが生まれやすい土壌が維持されます。どうしても製品やサービスの開発理念は薄まっていくもの。それを防ぐ意味もあります。

注意すべき「マイクロマネジメント」との違い

ファウンダーモードは、単なるマイクロマネジメント(過干渉)と混同されがちですが、本質は異なります。重要なのは、何が事業の成功に最も重要かを見極め、その核心部分に創業者がエネルギーを集中させることです。それ以外は権限委譲しているのです。

すべての業務に口を出すのではなく、「顧客価値の創造」という原点に立ち返り、そこからブレない意思決定をすることが、このスタイルの真価といえるでしょう。特に、最近の顧客は急に気持ちが変わり、消費活動が転換することがあります。それを見逃すと企業にとっては大きなマイナスになってしまうのです。今後、発生すると言われている消費者の価値観転換時期をいち早くつかみたいと思っている経営者がファウンダーモードになっていると推測しています。

事例

ファウンダーモードの代表的な実践者として海外の経営者が取り上げられます。下記の3人は著名なところです。

  • スティーブ・ジョブズ(Apple):
    製品の細部に異常なまでのこだわりを持ち、デザインからフォント、パッケージに至るまで直接指示を出していたことは有名です。たまにコールセンターに行き、消費者の電話を受けていたというエピソードも出てくるくらいです。
  • イーロン・マスク(Tesla, SpaceX):
    製造ラインに自ら入り、技術的な課題解決に直接関与するなど、エンジニアリングの最前線に立ち続けています。指示の出し方は、直接担当者に集中して投げかけるようです。そのため、決断も速く、他の企業にはない設備の導入が実現しており、AIのGrokの進化は他者を圧倒しているのではないでしょうか。そのため、このスピードを評価するエンジニアも集まっているのも納得します。
  • マーク・ザッカーバーグ(Meta):
    企業の長期的なビジョン(メタバース)の実現に向けて、自ら製品戦略の細部を主導しています。しかしメタバースは下火、そのため今年からAIへの大型投資を発表しています。AI人財も他者を圧倒する高額報酬で引き抜いています。

まとめ

ファウンダーモードとは、組織の規模が拡大したときに発生する大企業病の弊害を打破し、持続的な成長を続けるために、部分的な介入をする手法です。ある製造業の社長は
・クレーム内容
・注文キャンセル率
・キャンセル理由
をずっとチェックしています。そこに答えがあるからです。顧客の気持ちが行動に表れていると感じているので、ここだけは絶対に人に任せてはいません。判断を自分でしているのです。同じことをマネする必要はありませんが、外してはいけないポイントがあることは知っておくべきでしょう。

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『経営情報Web Magazsine ファースト・ジャッジ』運営執筆 藤原毅芳(fjコンサルタンツ) from2011