なぜ儲かるのか

半導体は私たちのデジタル生活に欠かせない存在。この半導体産業が、なぜ世界を代表する自動車産業と比較して、飛び抜けて高い利益率を誇るのかご存知でしょうか。今回は、世界トップクラスの半導体メーカーと自動車メーカーの財務状況を比較し、高利益率を実現するビジネスモデルのちがいを見ていきます。

驚異の利益率の半導体

まずは、具体的な営業利益率を見ていきます。報道で決算の数値が報告されますが、半導体メーカーは規模が大きくなっても利益率が高いので、かなり目立っていました。「そんなに利益が出るのか」と最初は感じたこともあります。高い価格で販売できるから、利益率が高いのだろうと思っていましたが、それだけではないようです。産業構造の違い、すなわち生産効率の違いに根本原因があるようです。

産業企業例営業利益率(ピーク値)特徴
半導体TSMC40.8% (2021年) 装置・材料メーカーも含め、20%以上が一般的 。好景気には50%を超えることもある 。
自動車トヨタ自動車10〜12%程度 部品・材料メーカーを含め、10%以下であることが多い 。高級車でも30%以下である 。

半導体が生み出す「バッチ生産」の魔法

この利益率の差を生み出すカギは、「何を」「どのように」作っているかにあります。トヨタ自動車が1台300〜500万円の自動車を年間約1,000万台生産するのに対して、半導体メーカーは1枚あたり30〜50万円の価格になるデバイスウェーハを、月に100万枚規模で生産しています。

ここでポイントなのが、半導体メーカーの生産効率です。

  1. バッチ生産(ウェーハへの集約)
    • メモリチップを1個ずつ作るのではなく、1枚のウェーハに1000個以上搭載し、まとめて生産
    • これは、1000チップ単位の「バッチ生産」であり、ウェーハ表面に形成することで30〜50倍の付加価値
  2. ロット生産
    • 同一仕様のウェーハを25枚単位のウェーハカセット(FOUP)に入れて、まとめてロット生産
  3. ライン生産(高稼働率)
    • このロットを、500〜1500もの工程を持つ製造ラインに大量に流動させ、極限まで生産効率を高めている

これは、パン屋がパンを一つずつ焼くのではなく、直方体の食パンを大量に焼き、後で6〜8枚にスライスして売る(個別化)モデルに似ています。新幹線事業が、車両数を増やし(バッチサイズの拡大)、高い乗車率(高い稼働率)で運行することで高利益率を達成している戦略とも全く同じです。

利益構成の違い

半導体産業のこの生産効率は、財務構造にも明確な違いを生み出しています。そこからわかることは、「ハイリスク、ハイリターン」であること。初期投資が大きいため、受注量を確保をしなければなりません。

産業利益構成タイプ特徴リスク
半導体産業固定費型企業固定費の比率が高い。変動費は10%程度。毎年巨額の設備投資(TSMCは300億ドル/年)を行う売上が下がると固定費が重荷になり、大赤字に転落しやすいハイリスク・ハイリターン
自動車産業変動費型企業変動費の比率が高い(トヨタは76.6%)。数万点の部品を組み立てるため固定費が小さく、大赤字になりにくい安定経営型

半導体産業は、1台数百億円もするEUV露光装置を短期間で回収できてしまうほどの高い利益率を確保し、継続的な微細化・高機能化への巨額な投資を可能にしています。この高額投資と高効率化の結果として高い利益率を実現しているのです。

まとめ

半導体産業の成功は、販売金額が高額だからだけではありません。それより、「バッチ生産」「ロット生産」「ライン生産」といった方法を駆使して、一度に大量に製造し、さらに付加価値を生み出しているのです。パンの製造や新幹線とビジネスの構造が似ているというのはユニークな視点だと思います。

半導体産業の利益率はどうして高いのか?
自動車産業と比較してみる
近藤 誠一
https://www.jstage.jst.go.jp/article/oubutsu/94/6/94_331/_article/-char/ja

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