予想より興味深い内容
2023年9月30日に行われた日銀の植田総裁の講演。その内容が公開されています。読んでみると、予想より興味深い内容だったので取り上げてみます。
中央銀行の財務と金融政策運営 日本金融学会2023年度秋季大会における特別講演
https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2023/ko230930a.htm
日本銀行総裁 植田和男 2023年9月30日
考え方がわかる
こうした講演内容には、その方の考え方が見えてきます。背景まで理解できると、今後の決定内容まで予想できることもあるので、資料としても貴重だと考えています。内容は丁寧に①過去から今までの日銀を振り返り、②諸外国の中央銀行の比較をしています。その根底にあるのは、
- 日銀の役割を強調
- 不確定要素はあるが大丈夫
といったメッセージが込められているように個人的には感じました。ただ、裏を返せば、それだけリスクが大きいのかと感じます。いくつかポイントをピックアップしてみます。
バランスシート拡大
日銀のバランスシートは9倍に拡大した、と説明されています。1998年と2022年を比較すると実に9倍にまで膨らんでいます。バランスシートが拡大するとリスクが増加します。また、今後バランスシートを縮小させるときもリスクは増えてしまいます。この出口に関して、意見が分かれるところであり、大きなリスクがあるのではないかと議論されています。植田総裁の見解では、
・通貨発行益もある
・国債などの資産からの利息収入もある
・ETFなどから得られる分配金もある
ので日銀の収入は増えている。また、
・保有国債の満期償還時の再投資を調整できる
といったコントロールも手段として選択できるとしています。他にも
「中央銀行は、通貨発行益が発生するという収益面での特徴を持っており、やや長い目でみれば、通常、収益が確保できる構造にあります」
述べているので、「政策運営能力が損なわれることはありません」としています。
他にも、
・強調させて頂きたいことは、金融政策の目的はあくまでも「物価の安定」であるということです。
と述べており、「中央銀行の財務は、こうした目的を達成するために行う政策の結果」としています。「賃金の上昇を伴う形で物価安定の目標を持続的・安定的に実現することを目指している」と強調しているところは注目ポイントです。目的のためなら、少々の財務結果は致し方ないのではないか、という気持ちが読み取れます。
海外比較
主要中央銀行との比較も掲載されていました。FRB、ECB、BOEとの比較です。バランスシートの規模については、対名目GDP比率で日本はトップになっており、他を引き離しています。ただ、リーマンショック(グローバル金融危機)前からの増加率だと日本は最低となっているのがわかります。こうした数値比較は、日銀の健全性を示すためだと感じます。他よりも良い点を示したいのではないでしょうか。
FRB:The Federal Reserve Board 連邦準備制度理事会(米国の中央銀行制度の最高意思決定機関)
ECB:European Central Bank 欧州中央銀行
BOE:Bank of England イングランド銀行(英国中央銀行)
まとめ
時間がある方は読んでいただきたい内容です。今後、植田総裁がどのような決断をするのかが予測できるからです。ある程度のことが発生しても、日銀はコントロールできる、準備をしているのを伝えたかったのではないでしょうか。ただ、そのシナリオ通りになればいいのですが、シナリオ以外のことが発生した場合はどうなるのでしょうか。その点も聞いてみたいところです。
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スキマ時間に読めるビジネスリーダーのための『経営情報Web Magazine ファースト・ジャッジ』fjコンサルタンツ藤原毅芳執筆