成長と衰退
会社の業績が低迷している時期には、組織全体が一丸となって困難に立ち向かう必要があります。そのため、会社の存続が危ぶまれる状況下では、全員が同じ方向を向き、一つの目標に向かうように自然となっていくのです。しかし、業績が好調になると、会社内部で複数の方向性が生まれ始めるという現象が見られます。その点について考察してみます。
共通点
今年も過去最高の数字を出した企業が複数ある中、共通点を感じています。それは、業績回復にともない、会社存続の危機感が薄れると、個人の意図や野心が表面化してくる現象です。組織の目標よりも個人の目的を優先し、自分の意図した方向に会社を導こうとする動きが出てきます。視線が会社の外に向かず、社内に向いている状態と表現した方がわかりやすいでしょうか。優先順位がおかしくなる状態だと思っています。
この状態になっていくと、リーダーの中には、社内を自分の意図でコントロールしようとする者もいるでしょう。派閥を形成するような動きがあったり、その派閥を意識したスタッフの言動があったりします。外から見ていて健全ではありません。こうした状況では、部分最適が優先され、全体最適の優先順位が低くなるのは当然です。
話題になる内容が
話題になるのが、昇進に関する関心が高まる傾向があります。「このポジションにつきたい」という個人の意思表明から、「◯◯をこのポジションにさせたい」という他者を推す動きまで、様々な形で表れます。本当は、市場をこうしていきたい、顧客に対してこんな提案をしたい、ビジネスモデルを変化させていきたい、新規事業にチャレンジしたい、といった会話が理想なのですが、そうならないようです。非常に残念です。
過去から学べば
過去の事例を見ても、特定の人物のためにポジションを作ったり、特定の人を優先させたりすることで、全体最適が損なわれた例は数多くあります。書籍「失敗の本質」でも明らかになったように、このような判断は組織の衰退を招く危険性があるのです。
さらに、仕事においても顧客のために働くのではなく、社内の権限のある人のために働くという目的混同が起きがちです。顧客の ニーズ を満たすことよりも、上司の機嫌を取ることが優先されるようになってしまっているようです。言わなくてはいけないことも言わずに済ませてしまう状況はよく目にします。「どうして言わないの?」と質問しても、「言おうと思ったのですが」と返事されるだけです。
ゆくゆくは
こうした状況に陥った組織は、成長するどころか衰退の一途をたどることになります。ただし、衰退のスピードは比較的ゆっくりで、数年かけて徐々に下降していくことが多いため、この危険性に気づく人は少ないのが実情です。そこまで先が見える人が社内にほとんどいないこともあり、「現状維持は後退なり」を地道に歩んでいるように見えてきます。
部分最適優先へ
会社全体のことを想い、正しいことを発言する人もいますが、発言を止められるようです。「余計なことを言うな」「すべてを報告するな」と言われているようです。全体最適のための意見が出なくなり、部分最適で議論が進む形になります。
組織が健全に成長し続けるためには、全体最適と部分最適のバランスを保つことがカギだと考えています。チームごとの能力を最大限に発揮してもらいつつ、組織全体の目標達成に向けて協力し合える環境を作ることです。ときには全体最適を優先するとチームには不利益が出ることもありますが、これも全体最適を優先するならばチームの部分最適は後回しになっていきます。ここが分岐点です。
ゾーンで考えると
このような状態をゾーンで表現すると理解しやすいと思います。では、どのようなゾーンの状態がベストなのでしょうか。ゾーンは次のように分かれます。
1)コンフォートゾーン
2)ストレッチゾーン
3)パニックゾーン
の3つです。コンフォートゾーンは快適空間であり、ストレスもなければプレッシャーもない状態。現状維持の状態がこれに当たります。もちろん、状態としてはわるくありませんが、成長はしません。数年間コンフォートゾーンが続けば、業績は間違いなく後退してきます。
最も成長するのがストレッチゾーン。適度なプレッシャーがあり、すぐには到達しない目標に向かっている状態です。試行錯誤しなければならない状況でもあり、正解が見えていないときもここに入ります。
パニックゾーンになると、プレッシャーが大きすぎたり、無謀な計画に向かっているときがここに当たります。このときは身体や精神に影響が出るので、成長どころではありません。最悪の場合、つぶれることもあるでしょう。
まとめ
業績好調はまさにコンフォートゾーンです。成功パターンを繰り返すだけになっていきます。そこに工夫は少なく、現状維持に近い状態が続いてしまうのです。そうなると、他者からの追随もあり、業績が落ちるか、売上維持でも粗利率が下がっていきます。差別化がなくなり優位性も少なくなっていくからです。そのためにも、リーダーの意識と行動が組織を変えられるかにかかっていると思います。組織は頭から腐ると言われていますが、業績が好調なときほど意識したい言葉です。
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